例えばこんな NIGHTWALKER



トランシルヴァニアにて、壮絶な戦いを繰り広げてから数ヶ月。
ここヴァチカンでは、ヴァン・ヘルシングが短い休暇をもらい、ぐったりと倒れこむように部屋で寝入っていた。

その様子はいつもよりやつれ、眠気に身も心も委ねて深い眠りの底にいるのが一目でわかった。

(…これがまた色っぽかったりするんだよねえ…。)

そんな疲労困憊の相棒を、とんでもなく罰当たりな眼差しで見つめるのは、
武器開発員で、托鉢僧のカールだった。

どうやら眠りながら発熱もあったようで、看護役が急遽必要になったのである。
そして1も2も無く、仕事の相棒であり、ヴァチカンの中でもヘルシングと親しい間柄であるカールが選ばれたのである。
勿論本人は快諾していた。

相手が寝ているとはいえ、
こうやってヘルシング…カールにとっては思い人である彼の傍に長くいることができるのだから。

発熱による汗で、顔にへばりついた髪をかきあげると
カールはヘルシングの汗に濡れた顔を拭き。

まじまじとその寝顔を見つめていた。


発熱によって頬をかすかに赤らめているその顔は、元から端整な顔立ちと相まって
えもいわれぬ艶を見せていた。

何度か服を脱がせ身体を拭き、着替えをさせたり。
水分をとらせたりと、かいがいしく世話をしながら何度理性がゆらいだことか。


それでも流石に寝込みを襲うようなマネはできず。

(これでも紳士なつもりなんだからね。)


…まあ托鉢層が紳士というのもどこかおかしいような気もするが


ヘルシングはカールのおかげで、ゆっくりと身体を休めていた。



##########

「…今日は風が強いな…。」

ヘルシングがぐっすりと寝入って数日目の夜。
がたがたと窓が鳴るほどに、強い風が吹いていた。

それはあの時のトランシルヴァニアの吹雪にも似た音で…。
そこまで考えると、カールはふと思いついた事を呟いた。

「こんな日はあの変態吸血鬼の亡霊でも出そうだな。」


「…誰が変態だ。」

「??!!」


突然聞き覚えのある声が聞こえ、振り向くと。


「な…?!ドラキュラ??!!」
数ヶ月前ヘルシングによって倒されたはずの最強の吸血鬼、ドラキュラがいた。


「な、何でお前が…?!」
戦うことになれば自分には決して太刀打ちは出来ない。
だが病床のヘルシングを放って逃げるわけにも行かず。

カールはまず浮かんだ疑問を投げかけた。


その疑問に、ドラキュラはふん、と興味なさげに視線を降ろす。

「貴様になど用はない…私はガブリエルに会いに来た。」


「ガブリエル…ヘルシングに…?!
 あの時の恨みを晴らそうって言うのか?!」

「ふん、貴様に説明する気はない。
 そこをどけ。私のガブリエルから離れるんだ。」

ゆらり、と陽炎のように伯爵はゆっくりと、カールの後ろで眠るヘルシングに近付いた。


その動きに、カールはあることに気づく。

「あんた…霊体か…?!」

「だったらどうした。…さあ、そこをどけ、私はガブリエルに…。」

「だったら…怖かあないね!」


カールは咄嗟にニンニクの粉末を巻くと、十字架を立てる。


「く…っ。結界か…。」

「簡易だけどね。実体のないあんたを防ぐくらいはできるよ。
 さ、とっとと帰ってくれるかな?」

まだ死んでから間もなく、精神力も回復しきっていないドラキュラには簡易でも十分だと判断したのだ。
そしてその判断は間違っていなかった。

ドラキュラは恨めしげに声を出した。
「…よくも私とガブリエルの恋路を邪魔してくれたな…。」


「だからさっさと…って、恋路?!恋路だって?!」
聞き捨てならない言葉を耳にしたカールは、ドラキュラに聞き返した。


「まさかあんたもヘルシングを…?!」

「…あんたも、だと?
 私と貴様ではガブリエルとともにいた時の長さも濃さも違うんだ。
 一緒にされるのは心外だ・・・。」

「何言ってるんだ!僕はヘルシングと出会ってから7年間、ずっと一緒だったんだぞ?!」

「たかが7年!は、片腹が痛いわ!
 私など400年の時をガブリエルとともに…。」

「いい加減なことを言うな!
 たとえそれが事実だったとしても、今のヘルシングとともにいたのは僕だ!」

「それがどうした!
 私は何十年と再会の時を恋焦がれて…!」

「僕のほうがヘルシングは好きだよ!」

「何を言う!ガブリエルが愛しているのは私だぞ?!」

「いーや、僕のほうが好き!」

「私だ!!」


深夜のヴァチカンにて僧侶と亡霊の不毛な口論が繰り広げられる。



そんな二人の横で、ゆらり、と人影が起き上がった。



この部屋の主であり、口論の的であるガブリエル・ヴァン・ヘルシングだ。


「あ、ヘルシング!起きたんだ。
 聞いてよ、僕のほうが好きだよね?!」

「おおガブリエル、この幼稚な托鉢層に教えてやるがいい。
 私とお前の400年の深い愛情を…!」


二人は同時に起き上がったヘルシングに詰め寄る。(結界はどうした)


すると。



「うるさい…。」


「「え?」」



「うるさい!!とっとと失せろ!!睡眠の邪魔だーーーーーーーーーー!!!!」


そう叫び。



聖水をたっぷり浸したクロスボウを室内で乱射したのでありました。




「「ギャーーーーーーーーーーーー!!!!」」



######

翌朝。


「うーーーーー…ん。」

ヘルシングは、非常にすっきりとした目覚めを迎えた。

「よく眠ったな…。…ん?」

そして部屋をふと見回すと。


「おはよ…ヘルシング…。」

壁にクロスボウで貼り付けられたカールと。

人型に並んで壁に刺さる矢が目に入った。(当然誰かさんの残骸)


「…何だカール、新しい遊びか?」


「……そういうことにしといてくれる?」



教訓。

ヘルシングの寝込みは死んでも襲うべからず。


(命はやっぱり大事だし。僕は紳士だしね!)





end

「新世界」の朴澄ひろさまに数ヶ月遅れて捧げました。久々のVHギャグ文です。
前回のギャグ文章とタイトルがかぶりましたが、あまり気になさらず…。
シリーズ、というわけでもないんですが。

いっそVHギャグのシリーズみたいな雰囲気でやってもいいかも?!とかアホなことを考えております。

朴澄さま、ご迷惑おかけして本当に申し訳ありませんでした!



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